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もう一人の自分

最近読んだ、黒木渚さんの「本性」という本。
3つの短編が収録されていますが、私は中でも「東京回遊」というお話がお気に入りです。

田舎に暮らす専業主婦の女性が、家出した先の東京で乗り込んだタクシー。彼女は運転手との会話の中でだけ、かつて夢見た大女優になった自分を演じますが、実は運転手も「もう一人の自分」を演じていました・・・

人生の中で2度も同じタクシーに巡り合うことは、おそらくなかなかないでしょう。だからこそ偽りの人生を語ってみてもいいのではないか、という着眼点。実際に、著者である黒木さん自身がタクシーで自分の職業を偽ったことがもとになっているそうです。

実は黒木渚さん、本来はシンガーソングライター。昨年、喉の病気によりライブ活動休止を余儀なくされたことから、小説家としての活動をスタートさせました。元々文学の研究で大学院まで進んでいるだけあり彼女の歌はとても文学的で、私もそこが気に入ってよく聴いています。そんな彼女が書く小説ならば、読んでみたい!というのが、本を手に取った理由でした。歌うのが仕事の彼女にとって、声が出ないというのは致命的。私も同じ「声」を資本とする職業に就く者として、その気持ちが痛いほど分かります。そんな辛く悔しい絶望の淵にあった彼女を救ったのが、小説の執筆だったのです。いわばもう一人の黒木渚——「東京回遊」にも通じる部分があるような気がしました。

もう二度と会わないであろう人にどんな自分を演じようか、考えてみるとわくわくします。せめてもう一人の林美玖は、文才に恵まれていますように。

林 美玖のバックナンバー

2017年 (12件)

2016年 (22件)

2015年 (7件)