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70年の時

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宮永 真幸 プロフィールへ
 太陽がまぶしく照りつける夏の日、僕はオホーツクの小さな町を目指し車を走らせていた。旅の目的は渓流釣り。しかし前日に降った大雨で川は濁っていた。釣りはあきらめざるを得なかったが、旅にはもうひとつの目的があった。一人暮らしをしている親戚に顔を見せることだ。20年ぶりに会うおじさんは94歳になる。僕が生まれる前に亡くなった祖母の兄弟。僕が北海道に住むことになるまでは、その存在も詳しくは聞いていなかった。札幌の病院に入院していたとき、母に頼まれお見舞いにいったのが20年前。年賀状のやり取りはしていたものの、直接会うのはその時以来となる。
 町に着いて電話をかけると、詳しい場所はガソリンスタンドで聞いてくれという。地元ではちょっとした有名人であるらしい。再会したおじさんは、少し痩せた体をソファから起こし、冷えた甘い缶コーヒーで歓迎してくれた。近況を報告しながら話すうち、話題は自然と昔のことへと移っていった。幼少のころは樺太で暮らしていたことをはじめて聞いた。そして戦争のこと、戦後のこと。語られる言葉には悲しみや苦しみ悔しさが滲み、その目は70年前の光景を見ているようだった。
 「それで、こうして生きてる。えばって生きてるさ。ハハハハ」70年の時を最後に笑って語り終えた。気がつけば太陽は静かに山の陰に隠れ始めていた。やさしい風の音しか聞こえない静寂のなか、こうやって僕も生かされているのだと思った。