76歳祖母への誕生日プレゼントは試合チケット 札幌大谷出身・笹修大選手と家族の絆 取材のその後…
ずいぶん見慣れた白い壁の家。
呼び鈴を鳴らすと、すぐに「はーい」という元気な声が聞こえた。
迎えてくれたのは秋山美知子さん。
11月12日に76歳の誕生日を迎えた。
美知子さんを訪ねる2週間ほど前、記者はこんな連絡をもらっていた。
(秋山美知子さん)「聞いてよ。誕生日プレゼントって、修大から試合のチケットと航空券が届いたの。だから見に行くんだわ」
「修大」とは美知子さんの孫、J2FC今治でプレーする19歳・笹修大選手だ。
STVでは2025年3月、笹選手のドキュメント番組『蹴球家族~修大と母とばあちゃんと~』を放送した。
笹選手は当時高校3年生。
札幌大谷で10番を背負う、誰もが信頼を寄せるキャプテンだった。
そんな彼を支えていたのが、昼と夜のダブルワークで家計を支える母の奈緒美さんと、家事から食事の管理までを担当する祖母の美知子さん。
2人とも「修大がプロになるためなら」と全ての時間を笹選手に費やした。
笹選手も「お母さんとばあちゃんがいなかったら今の自分はいない」と感謝しつつ、プロの舞台を夢見ていた。
番組では、笹選手の高校最後の選手権全国大会からJ2開幕戦でプロデビューするまでの6か月間を追った。
放送後も記者は笹選手や家族と連絡を取り合っていて、先の話を教えてもらった。
笹選手から美知子さんに送られてきたのは、11月23日に行われる北海道コンサドーレ札幌戦のチケットと航空券。
美知子さんと奈緒美さんの2人分あった。
美知子さんは1月に笹選手の引っ越しの手伝いで愛媛県今治市を訪れたことはあったが、これまでホームゲームを今治で観戦したことはない。
「いつもはテレビでネット配信を見るだけだったのにね。こうやって修大を今治で見られるようになるなんて…こんなに嬉しいことはない」と、少し目を潤ませていた。
美知子さんが観戦までに…と作っていたのが、真っ白なセーターだ。
左腕にはFC今治カラーの青で「33 SHUTA」と刺繍されている。
ばあちゃんから孫へのサプライズプレゼントだ。
サイズは、実家に置いてある笹選手のTシャツから測ったそう。
笹選手は普段からマメに連絡をしてくれるが、直接会うとなるとやっぱり違う。
「会えるのが楽しみだ」と美知子さんは言葉を弾ませた。
迎えた11月23日の札幌戦。
美知子さんと奈緒美さんは無事、今治に到着した。
試合前、美知子さんがスタンド内を見渡すと、笹選手の応援グッズを持つ多くのファンが目に飛び込んできた。
「ササシュウタ!」という個人コールも聞こえてくる。
(秋山美知子さん)「本当に愛されているんだな…と、大人になっちゃったなって」
1人前になっていく嬉しさと、独り立ちして離れていく寂しさと、一言では言い表せない感情があった。
試合中は笹選手が用意してくれたスタンド席から声援を送った。
笹選手はベンチスタート。
実は太もものけがの影響で、ここ数試合を欠場していた。
ほとんど完治しているが、この日も出場するかどうかは分からなかった。
家族が見守る中、後半30分。
笹選手の名前がアシックス里山スタジアムに響いた。
約2か月ぶりの出場だ。
試合終了のホイッスルが鳴るまでの15分間、それは3人にとってかけがえのない時間だった。
笹選手は「けがから復帰する瞬間をばあちゃんとお母さんの前で迎えることができてよかった」とほっとした様子。
プロとしての姿を直接見せることができた。
これ以上のおばあちゃん孝行はないだろう。
札幌に戻ってきて、美知子さんは「本当に楽しかった。私が心配することはもう何もないと思いましたよ」と、相当満足した様子だった。
美知子さんお手製のセーターは喜んでもらえたのだろうか、そう聞くと…。
(秋山美知子さん)「セーターは丈が短く、編みなおす予定です」
さすがプロ。高校生のころより、さらに体は大きくなっているようだ。
笹選手は12月のオフに入ったら少しの間、北海道に戻ってくる予定だ。
美知子さんはその時までに修正しようと、いま必死にセーターを編んでいる。
修大と母とばあちゃんと―。
3人の物語はこれからも続いていく。
【筆者】STV報道部 記者・長野哲
2025年7月まで6年間スポーツ部に在籍、主に中継ディレクターとして全国高校サッカー選手権やバスケットボールなどを担当した。
現在もアスリートの取材をしつつ、運輸関係やメガソーラー問題などを担当。