自治体との協議は“膠着” JR赤字8区間の行方 上下分離で黒字化「近江鉄道」から探る 北海道
JR北海道が単独では維持困難とする赤字8区間=黄色線区の協議が“膠着状態”となっています。
鉄路をどう維持していくのか。
「上下分離方式」を導入した自治体の取り組みから赤字路線の行方を探ります。
赤字額は計148億円 存続策に“上下分離”提案
北見市常呂町のタマネギ畑です。
夏の収穫に向けて除草剤がまかれていました。
(農家 田渕浩基さん)「順調に雨ももらって気温も最近1週間で上がって、しっかりタマネギも根を張っていい状態」
北見市特産のタマネギ。
収穫後は貨物列車に積み込まれ、全国各地に運ばれます。
通称「タマネギ列車」が走るJR石北線。
人だけでなく農作物を本州に運ぶ物流の大動脈ですが、深刻な赤字に直面しています。
JR北海道が2016年に公表した単独では維持困難な8つの区間、いわゆる黄色線区。
2024年度の赤字額はあわせて148億円に上っています。
(農家 田渕浩基さん)「広い北海道、端から端までいろいろなものを運ぶ・届けると考えると、赤字ではあるけどできれば存続してほしい路線です」
しかし、その存続策をめぐって波紋が広がっています。
(JR北海道 綿貫泰之社長)「上下分離方式の検討ということで、黄色線区150億円の赤字をこれからも負担していくことは当社としても厳しいことは地域にも理解を求めていかなければならない」
JR北海道は黄色線区を維持するために、沿線の自治体に費用の一部負担を求める「上下分離方式」など4つの案を提示しました。
しかし、深刻な財政難に直面する北見市にとって、さらなる費用負担は容易ではありません。
(北見市企画財政部 坂本浩司さん)「北見市やほかの周辺市町村も含めて財政が潤沢なとこはないと思うので、検討するのはなかなか難しいかもしれない」
赤字が膨らむ鉄路をどのように維持していくのか。
「上下分離方式」を導入し、存続につなげた路線があります。
上下分離を導入した「近江鉄道」課題は費用分担
国宝・彦根城がそびえ立つ滋賀県彦根市。
ゆるキャラブームの火付け役として知られる「ひこにゃん」が観光客を出迎えます。
その彦根市を含む10の市と町を走る近江鉄道です。
路線は59.5キロ、琵琶湖をイメージした水色の車両が特徴です。
乗客のおよそ7割が通勤・通学で利用。
120年以上にわたって地域の暮らしを支えてきました。
(地元の高校生)「休日以外は毎日使っている。ないと通学できないので大事なもの」
(通院で利用している人)「買い物に行くにしても、車に乗れないと電車かバスになる。地方にとってはなくてはならない存在の鉄道ですね」
(宇佐美記者)「窓から見るのどかな田園風景が魅力の近江鉄道。実は10年前、存続の危機に直面しました」
住民の高齢化や人口の減少が進み、乗客はピーク時の3分の1近くまで減少。
30年連続の赤字に陥り、近江鉄道は2016年、“単独では維持が困難”として自治体に協議を申し入れました。
(近江鉄道経営企画部 岸田幸大さん)「自社単独でこの問題を解決できなかったので、地域のインフラとしてどう重要なのかというところを一緒に考えることを意識した」
存続策として導入したのが「上下分離方式」です。
近江鉄道は列車の運行に専念し、施設や車両の維持・管理を県と沿線自治体が担います。
頭を悩ませたのが、費用をどう分担するかでした。
調整役を担ったのは、滋賀県だったといいます。
(滋賀県 三日月大造知事)「懸案でございました、自治体の費用負担の割合は決定をいただきましたし、何より沿線地域のみなさまに、全線残っててよかったなと思ってもらえるような、そういった公共交通にしたてられるよう、みなさんの協力を得て一緒に頑張っていきたい」
10年間の事業費は158億円。
国からの補助を除く116億円のうち県が49.5億円、沿線の市と町が66.5億円を負担することになりました。
(滋賀県交通まちづくり部 森原広将さん)「一地域だけではなくて、県全体にとっても近江鉄道が非常に大切な基幹交通軸であるという認識のもとで、経済面や地域の活性化にも寄与するというところで負担をしている」
地域に支えられ…31年ぶり黒字化
沿線のマチでは、鉄道を支えようとする動きも広がっています。
日野駅に設置された交流施設「なないろ」です。
この日は楽器の無料体験会が開かれ、地元の高校生たちでにぎわっていました。
(高校生)「電車の本数が少ないなかで、こういう場所があったら友達とも話せるし、自分が参加しなくても見ているだけで温かいと思う」
もともと駅の業務スペースだった場所を住民らが改装。
日替わりの店主を募集し、1日3000円で貸し出しています。
(「なないろ」を運営 西塚和彦さん)「日野駅の『なないろ』が地域の中の社会的結節点の1つとして機能していることが、鉄道なり地域の持続性につながっているかなと思う」
人口およそ2万人の日野町では、10年間で6億9千万円を負担。
駅の再生を進める中で、鉄道を残したいという思いが高まっていったと言います。
(日野町 安田尚司副町長)「(上下分離によって)費用負担がどれだけになるのか大きな課題だった。ただ、町も駅を再生すると決めて取り組んでいる中だったので、なんとか存続していくべきではないかと」
こうした取り組みもあって、2024年に上下分離方式を導入してから近江鉄道の利用者は増加。
31年ぶりに黒字に転じました。
(日野町 安田尚司副町長)「存続していくなら利用しなきゃいけないし、自分たちの鉄道だ、自分たちが何とかしなきゃならないんだという危機感、その意識は今までと全然違う」
自治体との協議「時期尚早」JRに迫る“期限”
先週、釧網線の沿線自治体が集まり、路線維持に向けた会合が開かれました。
しかし、JR側が欠席。
協議は当面、見送られることになったのです。
JR北海道の綿貫社長は5月20日の会見で、「当社の考えを公表した際に、地域のみなさまから様々な厳しい意見があったので、丁寧に進めていく必要がある。直接協議するのは時期尚早かと思っている」と話しました。
これに対し、鈴木知事はー
(鈴木知事)「(JRは)厳しい意見が出ることは想定できなかったのかなと。協議自体、私は必要だと思っているので、そこについて汗をかき対応したい」
JRは、今年度末までに黄色線区の改善策を取りまとめるよう国から求められています。
時間が限られるなか、協議の入り口にさえ立てていないのが現状です。
(北大公共政策大学院 石井吉春客員教授)「期限を明確に持っているのはJR側なので、その期限の中でステップをつくっていかなくちゃいけない。協議の前に総合交通体系、それぞれの沿線がどうあるべきかという議論される必要があると思う」
黄色線区の問題は、沿線地域だけにとどまるものではありません。
北海道全体の交通ネットワークをどのように維持するか、いまそのあり方が問われています。