Dr.トーコのラジオ診療室

11月28日放送「現在の医療機関を取り巻く環境について」

2021年11月28日(日)

11月28日放送「現在の医療機関を取り巻く環境について」

  • 陶子先生&石川先生&山本さん
陶:今日もゲストをお招きしましたよ。先週に引き続き、愛心メモリアル病院の石川康暢(いしかわやすのぶ)先生です。おはようございます。
石:おはようございます。
山:おはようございます。よろしくお願いいたします。
陶:先週もご紹介しましたが、石川先生は、腎臓、透析、腎移植、栄養専門医です。また産業医として企業の作業管理の安全管理もされています。そして、経営管理学も学び、MBAも取得されているという先生です。
  今日もよろしくお願いします。

山:それでは「Dr.トーコのラジオ診療室」、石川先生、今日のテーマは?
石:「現在の医療機関を取り巻く環境について」というお話です。
山:現在の医療機関を取り巻く環境について…ですね。
陶:前回は、3月まで通学されていた小樽商科大学のビジネススクールについて
お話をしていただきました。今回は、石川先生が現在学んでいる、北大のプロジェクト「HUHMA」(ヒューマ)についてお話していただきますよ。その中から、現在の医療機関を取り巻く環境、が見えてくるということです。
山:そのプロジェクト、HUHMAというところから教えてください。
石:HUHMAというのは文部科学省が設定する「課題解決型高度医療人材養成プログラム」のことです。ここで学ぶと病院経営アドミニストレーターという資格の取得ができます。HUHMAではMBAで学んだような経営管理学を特に医療分野に応用した内容で講義してくれます。
陶:「アドミニストレーター」を翻訳すると「行政におけるリーダー」「管理者」という意味になりますね。
石:具体的には、実在の病院の成功事例を分析するようなケーススタディ、カルテ情報などの医療情報を活用した分析などに応用していくような内容となっています。ここで問題提起をしたいと思います。
陶・山:なんでしょうか?
石:「医療機関は儲けてはいけないのか?」という問題提起です。
山:「医療機関は儲けてはいけないのか?」、医療はお金儲けではない、といったイメージがあります…
石:企業には営利団体と非営利団体という言葉があります。営利団体は株式会社のように出資者に配当を行う形態です。
  公的病院や医療法人は、ともに非営利団体です。しかし、非営利団体は儲けなくてもいいというわけではありません。出資者に分配をしないという意味なだけですから。実際は利益を得なければ従業員の給料も払えないし、機械や施設の更新の資金もできないことから、医療機関自体が持続できません。
陶:こういう説明をしていただくと、スッと腑に落ちますよね。医療機関の機械や施設って特に高額ですから、コストがかかるんです。それをどこから捻出するのかということを考えるというのもまた経営の一部であるということですよね。
石:最近は、「SDGs(持続可能な開発目標)」とよく言われています。
  医療機関が持続可能でなければ地域におけるインフラが整備されないこととなり、地域全体の持続可能性も実現しないということになります。現に、1年間で平均40件弱の医療機関が全国で倒産しています。
山:想像していた以上に医療機関を存続させるというのは金銭的にも厳しいということなんでしょうか?
石:一般の企業の利益に対する考え方は、コストを削減するとか、差別化を図って付加価値をつける、つまり値段を上げたりして利益率を上げることで利益を確保しますよね。ただ、医療機関は診療報酬が決められていることから、付加価値分の利益を付けることができないわけです。
  そのため、診療の回転数を増やしたり、コスト削減や医療外の収益を増やしたりすることでしか、利益を上げることができません。
陶:保険診療をおこなっている場合には、当然ながらどこの病院でやっても治療や検査が同じなら、かかるお金は同じわけですよね。そういう意味でも差別化というのはなかなか難しいですよね?
石:金額での差別化はできません。そのためコスト削減に走るケースもあります。医療機関の経費の50%前後を占める人件費に目を向けられることが多いのですが、これを下げることは職員の不満足度を増やしてしまうことからよっぽどでない限りはやってはいけないことです。そのため、利益を上げるには回転数を上げること、つまり診療の数を増やすことしかできない。
  全ての医療機関がそれを考えているため、同じような施設形態が近くにあるとお互いにダメージを受けてしまいます。これらを変えていくためには、状況を把握して他の病院と競争を避け協力関係を築くこと、つまり外部環境に柔軟に対応するということが求められています。従来の医療機関は、自分の提供したものを顧客に購入させるという対価的なサービスでした。
  しかし、今では外部環境を柔軟にとらえ、外部環境に適したサービスの提供、そしてそのようなサービスを提供できるための内部組織の変革が求められていると思います。
陶:卑近な例で恐縮ですが、私の記憶を思い起こしてみますね。H・N・メディックでは7年くらい前から通院送迎をしているんです。送迎がないと通院できないような患者さんのニーズを感じて始めたことですが、当初は企業と提携することも検討したんです。でも、もしもできるならば、院内で顔を見知った人間が送り迎えすると患者さんの安心をお届けできるんじゃないかなと思って。私がそうしたくてやってる!みたいなところもあるんですけれど。そういう試みも、今伺った外部環境に適合させた内部組織の変革、すなわち「良いこと」と捉えて考えてもいいんでしょうか?
石:おっしゃる通りだと思います。
陶:嬉しい~、良かった!
石:また医療をサービスと捉えることで、患者さんにとって「より良かったな~」と思っていただけるように、サービスの品質を上げる必要があります。そのためには、スタッフの要望を満たして、スタッフの満足度を上げていくということが大切です。
陶:MBA、HUHMAで学ばれて、変わったことは何ですか。
石:まず自分の診療を財務的に考えるようになりました。サービスの拡充のためにいろいろなことで病院に支出を求めることは本末転倒です。重要な業績の評価指標を設定して、それを達成するために必要な支出を求めるようになりました。また、実績を示すことでその支出に対する信頼を勝ち取るように変わりました。
陶:重要な業績の評価指標って難しいかなと思うんです。病院が絶対離れちゃいけない大事な考え方は「最終的に患者さんのためになること」ということで、そこを間違えないようにしないといけません。ビジネスとして考えることは社会的な役割としてとても大切だけれども、ともすると簡単に間違えてしまう気がするんです。私たちが患者さんの顔を見ながら考え続けるのはすごく大事だと思います。同じ病院とはいえ、それぞれの組織によって評価目標とか指標は違うと思うので、「中の人」にしかわからないことはいっぱいあると思います。だからこそ、「中の人」である自分たち自身が考えなければいけないんだな、という認識を新たにしました。
石:たしかにビジョンを一定にするというのは大事ですよね。あとは、診療においてサービスの質を上げるためには自分自身の満足が必要ですよね。
  今までは自分自身の満足度を上げる要因が分かりませんでした。今までは、所属している組織からはみ出したくないとか、周りから認められたいというところが大きかったように思います。しかし、改めて医療を考えると患者さんの生命予後、そして生活の質の改善が大切なことで、組織やその中にいる自分はその次の存在ということに気づきました。
  それからは純粋に自分が提供するサービスそのものが患者さんの役に立っているか、ということを考えるようになりました。
  ただ贅沢といいますか、お願いをいうのならば患者さんから「ありがとう」と言われることが望みで、それが自分自身の救いにもなっています。

陶:すごくわかります。人間嬉しいとやる気も出るんですよね。
  先生、最後にこれだけはおっしゃりたいということはありますか?
石:MBAや、HUHMAを通じて言いたいことは、従来の医療だけに特化した学習だと、サービス業としては取り残される可能性が高い、ということです。
  いろいろな学問のいいとこどりをしていく必要があるのではないかと思います。今は経営管理学が中心ですが、これからは他にも取り入れるべき学問は増えていくでしょうね。
陶:先生、ぜひ一緒に勉強させてください。我々、医療者たるもの「患者さんのために」というところにがっちり足を入れて、そのうえでいろんなものを取り込んでいく姿勢が大事です。私はきょう、あらためて「これでいいんだな」って思えて嬉しかったです。
山:先週、今週と2週に渡り、愛心メモリアル病院の石川康暢先生をお招きしました。石川先生、ありがとうございました。
石:ありがとうございました。
陶:ありがとうございました。
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