Dr.トーコのラジオ診療室

5月24日(日)「”透析食”ってなんだろう?どのように作るの?」

2020年5月24日(日)

5月24日(日)「”透析食”ってなんだろう?どのように作るの?」

  • 船渡シェフ、陶子先生
陶:過去の回で「病院食こそ美味しくなくてはならない」、「透析食レシピ本」などのテーマを取り上げてきましたが、そもそも「透析食」ってなんだろう?と疑問に思う方が多くいるのではないでしょうか。そんな素朴な疑問に、その「透析食」を作っている当院の調理師とお答えしたいと思います。今日はゲストとしてH・N・メディック新さっぽろで透析患者さんの調理をしている船渡祐輔(ふなとゆうすけ)シェフに来てもらいました。
船:おはようございます。H・N・メディック栄養部、調理師の船渡祐輔です。
山:おはようございます。今日はよろしくお願いします。
陶:船渡シェフは腕のいいシェフで、とにかく美味しく食べてもらうことに心血を注いで生きています。前理事長だった私の父親が体調を崩して食が細くなったときに、船戸さんは食べられなくなった父に手を替え品を替え、なんとか食べさせようという思いのこもったお食事を毎日病室に届けてくれました。名実ともにおいしく食べることに心血を注ぐスペシャルシェフです。
船:調理師を15年やっていますが、人に食べさせることがとにかく好きで、うちの嫁は食べさせられ過ぎて太った、と文句を言っているほどです。
陶:一般的に「透析食」と言ってもどんなものなのか、説明なしには分からない人が多いと思います。「透析食」を食べた事がなければ作り方も分からないという感じだと思います。
船:透析患者さん以外で「透析食」という言葉を耳にする人はほとんどいないと思います。透析に関わらなければ巡り合う事がないものなので、普段食べている食事との違いがわかりません。また、透析患者さんにおいても実際に「透析食」がどういったものなのか、残念ながら充分には理解されていない方が多くいる現状があります。実際に、自分で調理をする患者さんや、そのご家族が「透析食」をどのように作ったらいいのかと質問される事がよくあります。
山:そうですね。薄味とか少なめとか、漠然としたイメージしかもっていなかったです。
陶:じつは少なめ、というのはよくある誤解です。塩分控えめは正解ですが、少なめであることは善ではなくて、特定の食材の量を控えることにトリックがあるのです。
船:当院では、外来透析患者さんに提供する食事にエネルギー、タンパク質、カリウム、リン、塩分の5点に制限を設けています。
山:エネルギー、タンパク質、カリウム、リン、塩分の5点ですか?
船:簡単に言うと、この決められた制限の中で作る食事こそが「透析食」です。塩分、カリウム、リンを抑え、エネルギー(カロリー)をしっかり取れる食事、それが「透析食」です。実際に当院で提供している「透析食」の一例をご紹介します。米飯(主食)、とんかつ(主菜)、大根の柚子味噌のせ(副菜)、青菜のお浸し(小鉢)、味噌汁(汁物)です。
山:おいしそうです。それでは何が違うのでしょうか?
船:「摂取量」と「調理の工程」(作り方)です。透析食に避けてもらいたい食材はありますが、使ってはいけない食材はありません。使う「量」が問題なのです。例えば、一般的なとんかつには豚ロース肉を120~150g程度使いますが、当院では70~80gを目安にしています。
山:半分より少し多いくらいですね。
船:また、調味料に関しても同じように決められた塩分を制限内で使用しています。
陶:豚ロース肉がおよそ半分の70~80gと聞くと少ないと思われますが、私も同じ透析食を毎日食べており、全く足りないという量ではありません。米飯もしっかりとることでカロリーアップがはかれます。
船:透析食に特徴的な「調理の工程」の基本は、食材からカリウムを抜く「水さらし」や「茹でこぼし」です。
山:「水さらし」とは水でさらすこと、「茹でこぼし」は茹で汁を捨てること、ですね。
船:この2つの作業は重要でありながらも、とても簡単に出来る工程です。特に野菜類は「水さらし」、「茹でこぼし」をしてから使用する事で、口に入るカリウムを抑えられれば、結果として食材として使える総量を増やす事ができます。
山:「水さらし」や「茹でこぼし」でカリウムを抑えるのですね。
船:その他にも、透析食は使える食材の量に制限があるため、一般的にはボリューム感が少ないと感じると思います。しかし、その制限の中でもエネルギーをしっかりと摂取しなければいけません。そこで重要なのは、どの「調理法を選択するか」です。
山:どの「調理法を選ぶか」ですか?
船:「調理法」を一つと言っても、焼く、煮る、揚げる、蒸すなど様々なものがあり、料理名だと数えきれないほどの種類があります。その中で使える量と必要なエネルギーを考え、それに合った調理法を選択できるかが重要になってきます。また、単品の料理だけでエネルギーなどの全てを賄うよりも、副菜や小鉢などを上手に使い、足りないものや逆に摂りすぎてしまっているもののバランスを調整する事で、より良い「透析食」に変えていく事ができます。
陶:先ほどメニューにとんかつが出てきましたが、揚げ物はいいのですよ。揚げることで油によるカロリーが体に入るのでとても大事です。基本的に炭水化物1gで4キロカロリー、たんぱく質1gで4キロカロリーですが、油は1gで9キロカロリーあります。油を体に入れることでしっかりとエネルギーになるため、揚げることは透析食にとって良い調理法の一つです。
山:陶子先生は以前に、揚げることは水分も飛ばしてくれるから良いと教えてくれましたね。
船:「透析食」とは、制限があっても決まりのない食事です。「量」と「調理の工程」を意識して工夫する事で色々な料理を食べる事ができます。そして、それは透析患者さん以外の人もおいしく食べられる「透析食」になります。
陶:透析患者さんにとって食事は「治療」の一環であり、生命予後と大きく関わりある要素の一つと言えます。そのため、毎日食べる何気ない食事が重要になるという事を理解していただきたいです。
船:更により調理師目線で考えた時に必要だと思うものは、「美味しさ」だと確信しています。透析患者さんにとって食事は「治療」の一環ですが、美味しくなければ食事を残してしまったり、もしくは食事そのものを取りたくないと思い、その事が患者さんにとって不利益に働いてしまう可能性があります。そう考えると「美味しさ」という要素はとても重要です。H・N・メディックが開院当初から透析食に美味しさを求めるのも納得できます。「透析食」のお手本になるものを作り、透析患者さんに還元する事が、当院で働く調理師の責務であり喜びだと感じています。
山:毎日の食事は生命維持の大前提ではありますが、やはりどんな方にとっても心の栄養なのですよね。美味しくて満足したり、嬉しくなったりしながら体にしっかり活きる食事ができるのは、一石二鳥どころか一石百鳥ぐらいの価値がありますね。
陶:病気が一つある患者さんに「美味しいもの」をお届けすることは本当に大事だと思っています。来週も船渡シェフとお送りしますが、実際に当院で透析食を食べている患者さんの反応や、よく聞かれる質問について、ざっくばらんにお話ししていきます。
山:陶子先生、船渡シェフ、来週もどうぞよろしくお願いします。
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