Dr.トーコのラジオ診療室

9月20日「栄養状態って何ですか? 前編」

2020年9月20日(日)

9月20日「栄養状態って何ですか? 前編」

  • 陶子先生、山本さん
山本:今日はスタジオにゲストの方をお迎えしております。H・Nメディック「さっぽろ東」の院長 角田政隆(つのだまさたか)先生です。おはようございます。
角田:おはようございます。
陶子:角田先生ですけれども、ずっとお招きしたかった先生なんです。栄養学、特に腎臓と栄養ということについての臨床的な検討を多くなさっています。1年の区切りということで満を持しての登場、当HNグループの「さっぽろ東」で院長として診療に関わって下さっています。ちなみに先生、ご趣味は・・・?
角田:私、落語を聞くのがすごく好きで、この前は久しぶりに喬太郎の独演会に行ってきました。
陶子:先生は私にもたくさんの落語家の方を教えて下さって。多趣味なんですよね。将棋とか。
角田:そうですね。将棋とか…楽しいことは何でもやる、という感じですかね。
山本:そんな角田先生には2回に渡ってお話をしていただきます。では、角田先生、お話のテーマは?
角田:「栄養状態」って何ですか?というお話です。山本さんは、「栄養状態」って説明できますか?
山本:身体に必要な栄養分がちゃんと満たされているか?っていうことでしょうかね
角田:透析患者さんってよく「栄養状態が悪い」って言われていまして、本当に非常に大きな問題のひとつになっているんですけれども、この「栄養状態」という言葉、わかっているようで上手く説明できる人は少ないのではないかと思うんです。「栄養」というものは大きな問題であると同時に患者さんも一緒に考えられる、治療に参加できる分野なので、「栄養状態」というものをきちんと理解してもらうのは大事だと思っています。「栄養状態」というのは、一言で言えば「食事を摂れているか?」「どんなものを食べているか?」「食べていることで身体の状態はどのように変化しているか?」といったことを診ていく非常に幅広い分野なんです。
陶子:いま先生がおっしゃったとおりで、「栄養状態」という言葉があるのですが、実際に何が問題になるかと言えば、「何か身体に病気がある場合、その時の栄養の状態が自分の行く末に大きな影響を与えるかもしれない」ということです。じゃあそれが具体的にどういうことなんだ?ということを掘り下げていくと、食事に行き着くいうことですね。
山本:私たちにとってもそうですが、透析患者さんにとっての栄養状態、食事を考えるっていうのは、とっても重要なこと、なんですね?
角田:そういうことですね。まず、透析患者さんの栄養状態はなぜ「悪い」のか、ということを五大栄養素の観点から説明します。五大栄養素というのは、炭水化物・タンパク質・脂質の三大栄養素に、ビタミン・ミネラルを加えたものを言います。人間の身体というのはこれらの栄養素を使って、活動のエネルギー源としたり、身体を作るのに使う栄養としたり、身体の中での代謝を円滑にさせたりしています。なかでも炭水化物・脂質はエネルギー源となるんですけれども、特に「主食」というものに含まれている炭水化物、これは直接エネルギー源として使われています。ところで、透析中の患者さんって、4時間、寝ているだけ、なんですが、基本的にはエネルギーを使うんですよね。基礎代謝とも言いますが、この4時間の透析中に患者さんがその時点でどういう栄養素を使ってエネルギー源にしているかという研究がありました。最初は炭水化物をエネルギー源にしていくんですけれども、だんだん時間が経つにつれて、脂質をエネルギー源として必要になっていくように変わっていくんですね。少し難しい話になっていきますが、脂質をエネルギー源として使う場合、細胞の中にエネルギーの再生工場・ミトコンドリアがあるんですが、このミトコンドリアに脂肪酸が入っていくときに、カルニチンという物質が必要になります。透析患者さんはこのカルニチンというものが透析中に抜けていってしまう。結果としてカルニチンの欠乏状態に陥りやすいということが知られているんですね。だから、脂質をエネルギー源にする力というのは透析患者さんはあまり強くないということになります。それでも身体はエネルギーを必要とするので、その場合、身体はタンパク質を壊してエネルギーにしようとしてしまうんですね。タンパク質というのは筋肉に多く含まれているので、結果として筋肉が壊されやすい、という状況になっていってしまう…そのためにタンパク質を摂る必要があるんですけれども、透析患者さんはリンを制限する必要があり、それを守っている患者さんはリンを多く含むタンパク質の摂取量が少なくなってしまう。それから、タンパク質はアミノ酸からできていますけど、だいたい8〜10グラムが透析で抜けてしまうと言われていまして、なかなかタンパク質を補えない、という状況になってしまいます。
陶子:本当は、糖質を使って生きていくための糧を燃やして、身体を動かしていきたい。それを基本線とするけど、脂肪を燃やしてやらなきゃいけないときもある。しかしながら、脂肪を燃やすために必要なカルニチンが透析で抜けてしまうがために、脂肪を使おうと思っても使えない。そうしたら、身体をせっかく作っている筋肉を仕方ないから燃やして生きていく、みたいなことになると。普通に生きているだけで、透析していない人に比べると相当不利なエネルギー生成システムを働かせるほかないよね、という話なんです。
山本:もし透析患者さんをそのままほうっておいたら筋肉はどんどん失われていく…ということなんですね。
陶子:そうなんです。
角田:ところで山本さん、MIA(ミア)症候群ってご存じですか?
山本:ミア症候群ですか…なんのことだかさっぱりです。想像もつかないです。
角田:MIA症候群というのは、20年ほど前に出てきた透析の世界での概念で、
   M:栄養不良 I:慢性炎症状態 A:動脈硬化 という意味なんですけど、
透析患者さんはこの3つが起こりやすいと言われています。この3つの症状がある患者さんは、生活の質=QOLが悪くなると言われていまして、栄養状態はそういう観点からも気をつけていかなければいけないというものです。
山本:いろんなことに気をつけていかないとダメなんですね。透析患者さんにとって栄養状態がとても大切だということはわかりましたが、その栄養状態を測る指標というのはあるんですか?
角田:いろいろあるんですが、栄養状態が悪いとまずは「痩せる」んですね。まずは目標体重の変化を見ることが大切です。体脂肪率が測れる体重計でしたら、体脂肪が変化しているのか、筋肉が変化しているのかを推測することができます。そのあたりが重要なんですが、その他ですと、当院でも定期的に見ているMISという評価の仕方があります。
山本:MIS…これはどういう意味の言葉でしょうか?
角田:MISというのは患者さんの体重の変化、食事状況、消化器の症状、身体機能、それから透析歴、さらには身体の脂肪や筋肉の量の変化、BMI(体重を身長の2乗で割った値)の変化、それから採血の検査でアルブミンとTIBC(総鉄結合能)、この辺の値を見ながら点数化するものなんです。MISは0〜15点まであるんですが、5点以下であれば栄養状態は良い、と言われていて、逆に11点以上だとかなり悪い、というものです。当院の患者さんで定期的に見ているんですけれども、「栄養状態が悪い」と診断される患者さんは3〜4割の方がいまして、私もいっぱい食べて下さいとは話しているんですが、なかなかそう簡単にはいかないところが悩みどころではあります。
陶子:さっき山本さんが言ってくれた「指標ってあるんですか?」ってすごく大事なことで、自分の身体ってわかっているようでわかっていないんです。だから点数化して、自分の身体の中の状態を数字で知るということは、患者さんの当事者意識を上げるためにはいいことだと私は思っています。で、こういった細かいお話、難しいお話もありますが、噛み砕いてお話していこうと思いまして、今回のお話、次回に続きます!
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