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【津波避難】“徒歩”か“自動車”か…

東日本大震災からあすで12年です。
あの日、刻々と迫る津波から逃げ遅れないよう、徒歩ではなく車で避難した人が半数以上を占めました。
北海道の沿岸で発生が迫っているといわれる巨大地震ですが、徒歩で逃げるのか車で逃げるのかー
シリーズ「いのちを守る」。きょうは津波からの避難について考えます。

(職員)「よーいスタートはじめ!」

避難所の開設に見立てて、ダンボールで組み立てたのは即席のベッド。大人6人が座っても崩れないほど丈夫です。

(参加者)「結構丈夫なもんだね」

釧路市で先月実施された防災訓練です。厳冬期の災害を想定し、住民総出で配給物資の運搬方法を確認したり、豚汁の炊き出しを振舞ったりしました。

(参加者)「いただきー、おいしいわ」

釧路市が危機感を強めているのは、発生が迫っているといわれる千島海溝沿いの巨大地震です。

(釧路市 佐々木和史 防災危機管理官)「千島海溝沖の地震で一番被害が大きいと想定されているところが冬季ということになっています」

道は去年、津波の被害想定を公表。釧路市には20メートルを超える大津波が押し寄せ、冬に起きた場合は最大で8万4000人が死亡すると想定されています。

(アナウンス)「こちらは釧路市です。訓練、訓練、大津波警報が発表されたため…」

実際に避難するところから始まる防災訓練。「徒歩」で避難所に向かう高橋實さん81歳に密着しました。

(高橋實さん)「火を見てきます」

まずは火の用心、台所のガス栓を止めます。そして防寒着を着ようとしますが、焦るあまりファスナーをうまく閉められません。
この日の釧路の最低気温は氷点下17度。寒空の下、避難所までの道を急ぎます。

(高橋實さん)「やっぱり危ないですね、滑って。砂かなんか撒いておいた方がいいかも。滑って危ないですよ。足元が不安ですね」

後ろから様子をチェックしていたのは釧路市の職員です。

(釧路市の職員)「道の状況とか道の広さ、あまり狭いと避難が大変だと思うので、そういったところがどれくらいあるかを考えて記録しようと思っています」

1キロあまりの距離にかかった時間は15分以上。雪道に足をとられ、想像以上に時間を要したといいます。

(高橋實さん)「いざというときにどうすればいいのか、自分は分かったつもりでいるんだけど、実際になったときはおそらくできない」

(釧路市 佐々木和史 防災危機管理官)「原則、釧路市は徒歩避難を基本に考えて構築しております。車は様々なシミュレーションにもよるんですけど、渋滞をしたときに車を乗り捨てて逃げられる人がいるときに避難に影響が出てくる」

現在、内閣府の指針では津波発生時の避難は原則「徒歩」。東日本大震災のときに車で避難した人は全体の53%にのぼり、そのうち3分の1が渋滞に巻き込まれたことがわかっています。

こうしたなか、車の避難も可能にしているのが胆振のむかわ町です。

(宮崎記者)「まちの中心部、ここは海抜7メートルですが、津波が襲うとそのほとんどが浸水すると想定されています」

太平洋に面するむかわ町。その市街地はほとんどが平地であり、大部分が浸水想定区域に指定されています。
安全な場所に避難するためには、市街地から2キロ程度離れた日高自動車道より北側に逃げなければならないのです。

徒歩で避難すればどうなるのかー おととしの訓練で実証実験が行われました。
参加者は位置情報が確認できるGPS端末を持ちます。地震発生から20分後に避難を開始すると、人を表す「赤い点」が日高自動車道に向かって移動し始めます。
しかし、津波から逃げ遅れる人が出てしまうことがわかりました。むかわ町が取り入れたのが、車を使った分散避難です。

(むかわ町 総務企画課 梅津晶さん)「こちらが分散して避難した場合のシミュレーション結果で、町内の様々なルートを通って車が移動しているのが分かると思います」

町では、むかわ地区を6つの居住区に分け、それぞれ異なる6つの避難経路を推奨。これにより渋滞の発生を回避する狙いがあります。
左は分散しない場合、右は分散した場合のシミュレーション結果です。分散しない場合は、マチの中心部を通る道道に車が集中し渋滞が発生しますが、分散した場合には、渋滞が緩和されたことが分かります。

(むかわ町 総務企画課 梅津晶さん)「必ずしもまだ十分とは言えないと考えていまして、もう少し分散するように周知していくこと、渋滞を生まないようにしたりしていく必要がある」

徒歩か車かー 頭を悩ませていたのは、松並之雄さんと妻の陽子さんです。

(松並之雄さん)「高齢者もいるからね、そういう意味では早くまとまって避難できるということかな」
(松並陽子さん)「現実として津波に関しては想像できないな」

この日、車での避難を試してみることに。
犬の「コタロウ」と暮らす松並さん。車の避難では、一時的に寒さをしのぐシェルターの役割も期待できます。

(松並之雄さん)「基本的にはここまでは逃げようと」

走らせることおよそ5分で浸水想定区域の外に出ました。

(松並陽子さん)「話し合いをしておかないとだめですよね、いまから。どうするかね」
(松並之雄さん)「車で逃げる」
(松並陽子さん)「コタロウ乗せてね、行くしかないね」
(松並之雄さん)「家族だから」

専門家は、車の避難には入念な計画が重要だと指摘します。

(北海道大学 地震火山研究観測センター 高橋浩晃教授)「事前に十分なシミュレーションを行って、本当に道路が渋滞しないのか、津波の前には強い揺れが来ます。道路が強い揺れでも大丈夫なのか、がけ崩れする場所はないのか、橋が使えなくなるようなところはないのか、きちんとチェックしたうえで車避難を検討することは、道内の人口が少ない集落では十分ありえることかなと考えています」

東日本大震災から12年。あの日の教訓を糧に、地域の特性に合わせた避難行動の在り方が模索されています。
(2023年3月10日放送)
「どさんこワイド179」  9/8(金)9:55更新

北海道