Dr.トーコのラジオ診療室

放送内容

11月15日「体温計のはなし」

2020年11月15日(日)

11月15日「体温計のはなし」

  • 陶子先生、山本さん
陶:今日は炭水化物の話をしようと思っていたのですけれども。最近「非接触式体温計、どうなの?」って聞かれることが多くなってきたので、感染拡大を経た今、「体温を測定すること」についてお話しようと思います。
山:私もそれ、先生にお聞きしたかったんです。最近どこでも入り口でピッと体温計をおでこに当てられて…なぜあんなに簡単に体温が測れるのかなあと不思議だったんです。
陶:ではまず、いつものように、体温の定義からお話していこうと思います。
山:お願いします!
陶:体温とは体の温度、と書きます。医学的に「人の体調不良を診断するための体温」について話しますと、感染症法では、37.5℃を発熱、38℃を高熱と定義しています。
山:そういう法律があるんですね…よく37.5℃で区切っているのは、そこからきているんですね。
陶:おそらくそうだと私も思っています。で、この体温。体のどこの温度でも良いというわけではありません。
山:昔から、よく脇の下ではかりますよね。
陶:医学的に「人の体調不良を診断するための体温」は「体の中心部の温度」をさします。だけれど、おなかにざくっと体温計を刺すわけにはいきません
山:そりゃあそうです!大変なことになります!
陶:ですので、一般的には体の中心にできるだけ痛くなく近づける脇の下が使われるわけですね。一方で、痛みを気にしなくてもよい、麻酔がかかった状態で体温を測定できる手術室では肛門に計器を入れたりしています。
山:私、犬を飼っているんですが、動物病院ではおしりに体温計をさして測ってますよね
陶:えー!知らなかった!…嫌がらないんですか!?
山:いや、特に…。あっという間に終わっちゃいます。
陶:そうなんですね…ここまで話してやっと、体温計を置く場所の話までしかしていませんが…(笑)。さて、無事、体の中心に近い場所に計器をおけたとしますが、体温とは「計器がしっかり暖まった状態」で測定するものなのです。計器がしっかり暖まるには10分以上かかるといわれているので、待たなければならない!
山:体温計を脇に挟めて10分!?でも、最近は10分もかからないじゃないですか…
陶:山本さんの子供のころの体温計は、どんなのでしたか?
山:小さな頃はガラスの棒でできた、水銀計って言うんですか?あれを振って!使ってました。そのあとはピピピってやつになりましたよね…
陶:…ギリギリ同じ世代?私の家にはいまだに子供のころに使っていた水銀の体温計がありますよ。水銀の体温計って、5分以上は挟んでいなければならないもんだから、熱で具合が悪いとなおのこと、体温を測りながら寝ちゃったりしませんでしたか?結果、脇からはずれてしまって、みたいな。この水銀式の体温計に代表される、時間のかかるものを実測式体温計といいます。
山:なるほど…寝ちゃうほど時間がかかるので、計器が暖まるまで待っていられないという声を受けて、発達してきたわけですか?
陶:そうだとおもいます。10分もかからずに、数分でピピっと体温が出てくる最近のあの体温計は何をしているかというと、「予想」です。「10分後の体温を予測」しているんです。だからその名も…「予測式体温計」といわれています!
山:そのまんまですね!そうですか!その予測の精度を上げるために科学技術がそこに投じられているというわけですか!
陶:メーカーさんの技術によって、予測式であっても医療機器として使用できるレベルの体温計は実測値との誤差が少ないようですし、実測と予測のハイブリッドなんかもあるようです。
山:実測式と予測式があるのはわかりました。では、最近流行の非接触型、おでこにセンサーをかざすタイプのあれは、体にふれてすらいないので予測式、でしょうか?
陶:あれは、どちらでもないんです。
山:えー!?また違うものなんですか!?
陶:非接触式体温計は、正式名称を「皮膚赤外線体温計」といいます。皮膚赤外線体温計は、皮膚の赤外線を温度に換算したものなのです。だから、さきほどのお話の「体の中心部の温度」ではないんです。
山:え、でもじゃあどうして使われているんですか?
陶:そう思いますよねえ。
山:だって、デパートとかお店だけじゃなくて、病院の入り口でも使われているじゃないですか。病院が使っているなら、それはちゃんとした正確な体温計だって思っちゃいますよ。
陶:ということで私に質問をくれる方が結構いらっしゃったんです。それにはちゃんと答えがあります。「入り口での体温測定」、これは「診療行為」ではないからです。
山:診療行為ではない?
陶:そう。大人数が出入りする場所でのあの体温測定は診療行為ではなく、大人数を簡便に評価するという目的で行われています。「スクリーニング検査」って言ったりもしますね。だから病院診療における体温測定とはちょっと異なる行為、なんですね。
山:なるほど、だから先生は冒頭に体調不良を「診断」するための体温、と言っていたんですね!
陶:そうなんです。ここで「診療」と「スクリーニング」という目的を区別するに至るための布石だったんです。非接触式の体温計は一般に、たくさんの人を時間をかけずに通過させる網の目のようなものであって、病院の診療で使用してよい体温計ではないんですね。
山:では、家庭や職場での検温っていうのはどうでしょう?
陶:家庭での検温も実は非接触式ではないほうがいいとされています。今回の放送でお話しするので体温計のメーカーのホームページを見たところ、しっかりしたメーカーのホームページでは、「家庭での体温測定には実測式か予測式の体温計を使用ください」と書いてあったりもしました。ただ、職場での検温など、スクリーニングの意味が大きいような場合においては、接触予防策、人の使ったものを使い回すとよろしくない、という目的においても非接触式を使用することは許容範囲かと思います。
山:医療機器の認証を通っていない体温計なんかも取り沙汰されていたことがあったようですが、それとは関係ないんでしょうか?
陶:そういう議論もありましたが、今回のお話はそれとは違います。体表の温度をはかるか、体の中心に近い温度を測るのかどうかということと、医療機器の認証が通っているかどうかは別の話です。非接触式のものが医療機器の認証をうけていない、というわけではないんです。そもそも、厚労省の認証基準が違うんですよ。だから、「皮膚赤外線体温計」というものと、通常の脇にはさむ体温計、これは「違うもの」なんです。
山:私たちの認識としては、接触式のものと非接触式のものは目的の違う体温計、と考えればよいのですね!そこを個々人でふまえたうえで、毎日の検温は正しく行っていきたいですよね。
陶:それともうひとつ。色々な施設の入り口でスクリーニングしてるぞ、となると、熱が出ているとあれに引っかかるから、外出しない方がいい、と思ってくれる…体調が悪いのに外出しようかという考えを引っ込めてくれるというような、そういう心理的な効果もあるかもしれませんね。

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